みやもと。

みやもとはおれの幼なじみ。
幼稚園で出会って、名前が同じだったのですぐに仲良くなり
親同士も気が合ったようで、家族ぐるみの付き合いになった。




みやもとはほんまに純粋で、とことん優しいやつだった。




小学校に上がってまもなくの或る日、
二人で公園で遊んでいると、高校生くらいの兄ちゃんが近づいて来た。




おい、お前ら知ってるか、かめはめ波は普通の人間にも出せるんやで。
ほんまに自分最高の大声で、かめはめ波!と叫ぶことができたときに出るねん。
お兄ちゃんも何回か出せたことがある。いまは無理やけど。




みやもとの目は輝いていた。
おれたちはその言葉を信じ、喉が裂けそうなほどの大声で、何度もかめはめ波を叫んだ。




…いやいや出るわけないやん。あれ絶対嘘やで。と、疑うおれに
いや違う、おれらが自分最高の大声を出せてないだけや。絶対に出るはずや。と、みやもとは言った。




みやもとはそれから幾度も幾度もかめはめ波を叫んだ。
アホなやつだ、とおれは思った。




魔法のような夏の日だった。




中学2年のとき、みやもとと同じクラスになった。




中学に入学してから別々のクラブに入部したおれたちは少し疎遠になっていたけど
またみやもとと過ごす毎日がはじまって嬉しく思った。




お昼御飯の後みんなで談笑している中、おれはとても気分が悪くなった。
みやもとはそんなおれをずっと気遣ってくれていた。
気分の悪さは絶頂に達し、ついにゲロを吐いてしまった。
みやもとはおれのゲロを手の平で受け止めた。
ゲロまみれの手のまま、みやもとはおれを心配するのだった。




手で受け止めるとか…優しいけどアホなやつだ、とおれは思った。




おれたちは別々の高校へ進んだ。
みやもととの関係はそこで完全に途絶えてしまった。




そして2010年末、大阪駅でみやもとと再会した。
地元の駅まで一緒に帰った。
みやもとは高校1年の時に出会った人と長い交際を経て結婚。
いまは子どもが二人いてとても幸せだ。と話すのだった。




なんだかみやもとらしい人生やな、と思った。




あの魔法のような夏の日の公園で、かめはめ波を撃てなかったこと。
あの時おれは、あの兄ちゃんの嘘っぱちだ、という答えを出した。
みやもとの出した答えはどうやったやろう。




みやもとはきっと、かめはめ波が撃てないのは自分の努力が足りなかったからだ、と
最後の最後にもそんなふうに考えたやろう。そんな気がする。




そしてあいつはあいつらしく純粋に、優しい生きかたをして、あいつらしい幸せを掴んだんだ。




そんなふうに思った。